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第318話

弥生はしばらくその場に立ち尽くし、考え込んでいたが、最後には何かを決意したように振り返り、去ろうとした。

しかし、振り向いた瞬間、病室のドア前に立つ瑛介が目に入った。

二人の視線が空中で交わり、時間が止まったかのようだった。

数秒後、弥生は無理やり笑顔を作り、彼に向かって歩み寄った。

「おばあさんの様子を見に......」一瞬ためらった後、言い直した。「あなたの祖母のお見舞いに来たの」

瑛介は冷ややかで無表情な視線を彼女に向け、まるで彼女が見えないかのように無視してすれ違った。この場の空気は、まるで氷の破片が混ざっているかのように冷たかった。

弥生はその場に数秒立ち尽くした後、ここがもはや自分の居場所ではないことを悟り、そっとその場を離れた。

彼女が去った後、瑛介は振り返り、彼女が立っていた場所に一瞥をくれてから、視線を戻した。

弥生は荷物を取りに宮崎家に戻った。

彼女が家に入ると、執事と使用人たちがすぐに駆け寄ってきて、まるで親しい人を見たかのように喜びの表情を浮かべた。

「奥様、ついに戻ってきてくれたんですね!」

「昨夜はどこに行かれていたんですか?一晩中戻らなかったので心配しました」

「そうですよ奥様、お帰りなさいませ。お腹は空いていませんか?何か召し上がりますか?」

以前は誰もここまで温かく迎えてくれることはなかったのに、弥生は一瞬、みんなが何を考えているのか分からず、戸惑ったが、平静を装っていた。

彼女が一通り挨拶を交わし終えると、弥生は階段を上がって、自分の荷物を片付けるために部屋に向かった。

持ち出す荷物は少なく、日用品だけだった。衣類は残すことにした。使用人たちに疑われるのも面倒だと思ったからだ。

幸い、今日は瑛介も瑛介の母も家にいない。急いで荷物をまとめて出て行けそうだった。

使用人たちは下の階で世間話に興じていた。

「奥様が今日戻られたということは、旦那様と仲直りされたのかしら?」

「たぶんそうね。夫婦って喧嘩しても、寝ている間に仲直りするものだし」

ところが、話し終わった矢先に弥生が小さなバッグを手に持って階段を下りてくるのが見え、出かける様子だったので、皆は驚いた。戻ってきたばかりなのに、また出かけるつもりなのか?

彼女たちはすぐに駆け寄り、弥生を囲んだ。

「奥様、せっかく戻られたのに、またどこかに
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